高校未来図(下野新聞)

高校未来図


 県教委の「高校再編」に向けた動きが本格化する中、「生き残り」をかけて各高校が取り組み
に拍車を掛けている。賛否が分かれる「男女共学化」の行方。来春の新学習指導要領導入で
高まる「学力低下」の不安、目的意識を持てない高校生への対処−。21世紀の高校はどうあ
るべきか。いま求められる「高校未来図」を探った。



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1 現状への思い 
(2002年12月16日付)

進学校はなぜ別学?
“温存率”全国3位
共学、自然な姿なのに 

 「変なシステム」岩手出身の母親
 「男子校暗かった」足利の中3生


 明と暗−。
 「雰囲気が正反対だ」。目の前でにぎやかに繰り広げられる部活動のデモンストレーションを
眺めながら、足利市山辺中の三年生だった男子生徒(16)は思った。
 昨年九月、県境の群馬県太田市郊外にある太田東高(普通科)で開かれた学校説明会。活
気ある様子に、男子生徒は圧倒された。

 ■楽しんでいる■

 空手部の男女がそれぞれ気合を入れて形を示す。続いて応援リーダー部が華やかなチアリ
ーディングを披露した。
 「すごいな。みんな一生懸命で、楽しんでいるな!」
 一カ月前に見学した足利高(足高)は違った。男子校。当然、男だらけ。「何か、教室がどん
よりしていて暗かった」。あまりのギャップに、気持ちは太田東高に大きく傾いた。
 同じ山辺中出身の阿部良美さん(16)も今春、太田東高を選んだ。
 「女子校はつまらないよ」「足女(足利女子高)は勉強、勉強」−。足利市内の県立女子高に
進んだ二人の姉から聞かされる高校生活。楽しくない話ばかりだった。
 「女子校は人間関係でいろいろ気を使って大変そう。絶対嫌だった」。将来も見据えて、県境
越えを決めた。
 男子生徒も、共学ならどこでもよかったわけではない。「大学進学できる環境が整っているの
が条件だった」。足利市内の県立の共学校は、職業科を持つ専門高校か総合学科の足利南
高に限られる。
 「行きたい高校」が見当たらなかった。
 「共学だからって、そんなに変わらないんじゃない。まじめで成績のいい女子に刺激される。
足高に入っていたら、どんよりした青春を送るんだろうな」と男子生徒。
 二人とも、高校生活に大満足だ。

 ■強い違和感■

 本県の全日制県立高六十八校のうち、男女別学は男子校八校、女子校十校の計十八校。
別学校の占める割合は26・5%に上る。宮城県(32・1%)、群馬県(31・5%)に次いで全国
三位と、屈指の“別学温存県”だ。
 そして、宇都宮高(宇高)を筆頭に、別学校のほとんどは県内有数の進学校。戦前からの歴
史を持つ伝統校でもある。
 「どうして宇高に女子が入れないの?」
 岩手県出身の主婦(46)は、宇都宮市に移り住んだ六年前、強い違和感を抱いた。
 岩手の県立高校はすべて共学。「共学が自然な姿」と考えていた主婦にとって、本県の高校
の在り方は首をかしげざるを得なかった。
 「進学校を希望した場合、別学しか選べない。このシステムは変です」。男女共同参画社会、
公教育という観点からも、おかしいと感じた。
 しかし−。二人の息子は、ともに宇高に通っている。

 ■宇高を共学に■

 親としては共学校に行かせたかった。だが、息子の将来を考えると、県内随一の進学実績を
誇る宇高に目が向く。宇都宮市内には共学の普通科高校もあるが、選択肢には入らない。
 「共学の進学校がないから、やむを得なかった」。男女共生に強い関心を持つ主婦でさえ、
宇高の進学実績にはかなわなかった。
 主婦は強く主張する。
 「宇高を共学にすればいいんですよ。あれだけ広い敷地を持っているんだし。大人のノスタル
ジーが強すぎるんじゃないの」


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2 別学温存県 
(2002年12月17日付)

別学の道を選んだ本県
共存支持も中高生の6割
現在は共学派優勢に 


 「アイ・キャント」
 五十数年前、小柄な日本人男性が、連合国軍総司令部(GHQ)栃木軍政部の教育官にきっ
ぱりと言った。
 「本県は男女共学にしない」
 宇都宮市上戸祭町、小柴貢さん(91)だ。一九四八−四九年、県教委の学制改革担当者と
して、高校共学化を打ち出すGHQと交渉した。
 共学化は、全国各地で反対論が根強かった。だが、GHQには逆らえない。
 兵庫県教育史にはこんな記述がある。「軍政部は『(共学化の方針に)妥協策は決して許さな
い。兵庫県の学制改革の優柔不断な方法に満足していない』と強い意向を示した」
 西日本を中心に共学化が進む中、本県は姿勢を変えなかった。小柴さんは繰り返し訴えた。
 別学校の共学化にはばく大な経費が掛かる。トイレや更衣室、家庭科室、柔剣道場の新設、
グラウンドの拡張…。「戦争に負けて金がない。共学化のための費用は本県に一文もありませ
ん」
 戦前、小学校は男女別の教室だった。「子どものときから別学で育って、いきなり高校で共学
なんて、勉強より異性に夢中になってしまう。教育の効果が上がらない」
 平行線の議論が何十回と続く。それでも小柴さんは引かなかった。
 「絶対できません。生徒に悪い影響を与えるようなことは」

◇◇◇      ◇◇◇      ◇◇◇

 別学か共学か−。

 五十年以上前にも、この是非を問う意識調査は行われていた。
 小柴さんは、中学生の保護者を対象に全県下で意識調査を実施。「年ごろなのに共学では
心配」「別学校で男らしく、女らしく育ってほしい」…。結果は「別学賛成」が圧倒的だった。
 「県民も別学を望んでい る」
 小柴さんは胸を張って、調査結果を軍政部の教育官に示した。
 五十数年後。宇都宮女子高の同窓会長、石島京子さん(77)は「異性を考えずに勉強させ、
しっかりした人間を育てるべきだ。多様な教育の一つとして認めてほしい」と別学の意義を強調
する。

 ■GHQに反対■

 半世紀を経た今も、別学へのこだわりは根強い。
 GHQは各都道府県に軍政部を置き、教育の民主化を進めた。別学校の共学化もその一
つ。本県でも宇都宮高、宇都宮女子高などで共学化が進められようとしていた。
 しかし、小柴さんは厳しい経費負担、共学化の弊害を盾に抵抗。世論も強い味方となった。
 強硬にGHQに反対する本県は次第に注目を集め、関東近辺の教育委員会関係者を対象
に、小柴さんが講演する機会も設けられた。
 「栃木県の手法は素晴らしい」。主張を披露すると、参加者からこう絶賛されたという。
 「関東や東北に別学校が多く残るのは本県を見習ったから」と小柴さんは振り返る。教育官
が元教師で学校通だったこともあったろう。別学校は容認された。結局、氏家、鹿沼など一部
を除き、別学校は存続した。
 現在の世論は「共学派」が優勢だが、「ねじれ」も生まれている。
 県教委が昨年十二月、中学二年生、高校二年生とその保護者向けに実施したアンケート
で、共学に賛成する中高生は七割前後に上り、大多数が共学化を支持した。保護者も七割強
が共学化に賛成。別学賛成はわずか一割前後と、少数派だ。
 しかし、「別学をなくす必要はない」と共存を望む声も強いのだ。今後の県立高の在り方とし
て「共学校と別学校の両方あるのがよい」と考える中高生は六割を超える。「共学校がよい」は
二割強。大きな開きがある。

 ■気楽さが魅力■

 宇都宮市内の中学校に通う女子生徒(14)の志望は宇都宮女子高。
 「男子の前で一オクターブ声を上げたり、態度を変える女子を見なくて済むから」。別学の気
楽さが魅力に映る。
 「お母さんから、『いい高校に入れば、将来の可能性が広がる』って薦められたし」。まだ二年
生だ。将来は漠然としているが、「進学するなら女子校」と思う。
 全国的には特異な公立の別学校が、本県では当然の存在だ。
 二十一世紀−。小柴さんなら、どうしますか。
 「昔は異性が珍しかったから共学化に反対したが、現代は幼稚園からずっと共学。今なら共
学化しても問題ないだろう」


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3 共学化論議 
(2002年12月18日付)

本格化する共学化論議
温存県も推進の流れ
一部に生徒の反対運動 


 マスコミが取り囲む中、高校生十一人が県知事に迫る。
 「画一的な共学化に反対します」
 十月三十一日、埼玉県知事公館。県立の別学十一校(男子五、女子六)の生徒代表が「画
一的共学化反対決議文」を提出した。
 生徒たちは熱い思いを訴えた。浦和第一女子高生徒会長の渋井美和子さん(17)は「県立の
別学校を埼玉県の誇れる特徴にできるよう頑張ります」と述べ、行政側の発想の転換も促し
た。
 「強行突破しようという気はない。幅広く意見をうかがって結論を出したい」。土屋義彦知事の
答えは慎重そのものだった。
 県立福島女子高の学校案内。来年版から女性色≠ェ消える。
 今年は、淡いピンク色の背景に白い花の写真だった。来年は趣をがらりと変え、建築中の新
校舎と青空というデザインを採用した。
 同校は来春から共学となり、校名も「橘高」となる。「学校案内は、見るからに女性っぽくなら
ないよう心掛けた」と本多武二教頭。斬新なデザインは、新入生獲得のための一つの手段だ。
 本県では県教委が昨年七月、有識者による「新時代の学校づくり推進会議」を発足させ、共
学化論議を本格化させた。県内各地でフォーラムも開き、県民の声に耳を傾けた。
 別学温存県≠ナ、共学化の論議が熱を帯び始めている。

◇◇◇      ◇◇◇      ◇◇◇

 西洋建築風の壮大な門。文化祭の度に、学校入り口に「門」をつくるのが埼玉県川越高に欠
かせない伝統だ。
 高さ約十メートル。選挙ポスター掲示板などを集め、一年がかりで作り上げる。今年は英国
のセントポール寺院を模した。
 「文化祭直前は終電ぎりぎりまで取り組んだ。共学ではできないはず。男子校ならではの良さ
です」。生徒会長の長島史和君(17)にとって、門づくりは貴重な体験だ。
 全国の別学温存県≠ナ共学化に向けた動きが活発化している。
 別学率トップの宮城県は二〇〇一年三月、共学化推進を決定。二位の群馬県も今年二月、
同様の方針を取った。

 ■校風への思い■

 埼玉県は三月、県男女共同参画苦情処理委員が県教委に、「共学化の早期実現」を勧告。
生徒の直訴は、これに反発した動きだった。
 「何事も自分たちで取り組む校風、雰囲気を壊したくない」
 浦和第一女子高共学化対策委員長の河本しおりさん(17)は、こう反発する。同校は決議文を
出した十一校中、反対の割合が最も高かった。「重い物も運ぶし、教室の電灯も自分たちで取
り換える。別学の方がよりリーダーシップや自主性をはぐくめる」と強調する。
 全国的に注目を集める生徒たちの運動は、自校の伝統、校風への強いこだわりによるもの
だ。本県に、こうした表立った動きはない。
 一方、共学化が進む温存県≠烽る。
 「感受性豊か、思考が柔軟で自我の確立される高校時代に、男女が共に学び協力し合うこと
は大切な教育の過程だ」
 かつて別学率が26%(二十二校)に上った福島県は、一九九四年度から共学化を進め、来
春には別学校が消える。
 福島女子高と福島高は来春、共学校となる。受験生の競合が確実視されるなかで、福島高
は八月、体験入学を初めて実施した。参加した中学生約七百五十人のうち、女子が四割に上
った。
 福島県教育庁によると、元別学校の男女比に激しい偏りはない。九九年度に完全共学化し
た福島県白河高(元男子校)は男子五百六十二人、女子四百七十三人。生徒の九割は「共学
化は良かった」と評価し、進学実績はぐんと伸びた。前期の生徒会長は女子だ。
 一部の同窓会で共学化反対論が噴出したが、世論形成には至らなかった。「卒業して何十
年もたつ同窓生に意見する権利はない。伝統や校風は生徒たちが作っていくものだ」。福島高
の古市孝雄校長は断言する。

 ■本県両にらみ=。

 本県は「新時代の学校づくり推進会議」の提言を踏まえ、県教委が新年度には方向性を打ち
出す。推進会議は年明けにも提言をまとめるが、これまでの議論でその骨子は透けて見える。
「基本的に共学化を推進するが、別学校の存続を認める」−。両にらみ≠ノ映る。
 県内七カ所で開かれた「新しい高校づくりフォーラム」では、出席した現役高校生らが活発に
声を上げた。
 「共学でも個性を発揮できて楽しい」「特色を持たせる意味で別学があってもいい」
 どんな姿が望ましいのか。決めるのは、次代を担う子どもたち自身であるべきだ。


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4 学力重視 
(2002年12月19日付)

強まる「学力重視」傾向
「進学」生徒獲得の鍵
実績づくりに県立も躍起 


 大学生と共に、制服姿の高校生が講義室に座る。昨年十二月、群馬県桐生市にある群馬大
工学部。午後七時半すぎ、「数学的志向法入門」の講義が始まった。
 慣れた様子の大学生とは対照的に、高校生たちは真剣な表情で黒板の数式をノートに書き
写す。
 足利高は今年、生徒が同学部の講義で取得した単位を高校の単位に認める「高大連携」を
始めた。文部科学省が選ぶ理数系重点校「スーパーサイエンスハイスクール」の県内初の指
定も狙う。
 来春、高校にも導入される新学習指導要領。「学力重視」は、生徒を選ぶ上でもくっきりと現
れている。
 来春の県立高入試で学力試験と内申書の比重は一変する。普通科は軒並み、学力試験の
比重が高くなる。中でも壬生高は「4対6」から、「7対3」へ。
 宇都宮市の中学教師は「内申書が絶対評価に変わるので、学力重視になると思っていまし
たが。壬生高でここまでとは」と驚きを隠さない。
 甲子園の常連校、宇都宮学園高。少人数教育をうたう英進コースには、県立でも有数の進
学校をけった生徒が入学した。
 同校は昨年、宇都宮高で進学指導を長年務めたベテランを英進科長に抜てき。来春から校
名も文星芸大付属高に変更し、進学校への脱皮を図る。
 学力重視の傾向は私立高校でも際立っている。

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 ついに定員割れ−。今年三月の高校入試で、足利高に衝撃が走った。
 県内は少子化が進んでいる。本年度の中学校卒業予定者は、一九八九年のピーク時の
72%にまで減少。現在の零歳児が中学校を卒業する二〇一七年度は57%にまで減る。
 県教委の有識者会議が示す学校の適正規模は、全校生徒で五百−千人程度。これ以下の
全日制の県立高は十五校もある。統廃合は避けられない。

 ■進学校の地位■

 足利市の少子化も例外ではない。さらに、学習塾関係者が「最近、優秀な生徒は群馬県立
太田高、私立の白鴎大足利高の特進、足利高の順で希望する。両毛地区の進学実績は太田
高が一番」と指摘するように、足利高の一番の進学校としての地位は揺らいでいる。
 「この地域はいい意味で都市型。人間教育は当然のことで、保護者も地域の要望も進学に
ある。進学を通しての進路実現を念頭に、学校経営をしなくてはならない」と三室佳宥校長。
 「高大連携」、従来の文系、理系コースに加え、よりレベルの高い生徒を集めた「国際数理コ
ース」の設置。足利高は「進学」で選ばれる学校を目指す。
 壬生高をめぐる状況も厳しい。同じ学区に栃木市や石橋町、小山市が入り、宇都宮市も壬
生町から学区内扱いで受験できる。進学校がひしめく。
 尾高真佐子校長は「増える進学希望に応え、就職中心という長年の本校のイメージを変えた
い。学力試験と調査書の比重の変更は、中学生に対するメッセージです」。
 今年十一月の進路希望調査。中学三年生の本音が表れるという第一回調査で壬生高は過
去最高の一・三六倍を記録した。
 〇五年度の入試から宇都宮女子高と宇都宮東高は推薦枠をなくす。「ゆとり教育の象徴」と
して全校に導入されたはずの推薦も変わる。
 二学期制の導入、土曜日の補講や教室開放、七時間授業…。新学習指導要領の導入で高
まる学力への期待に応えようと、各校は工夫を凝らす。
 特色の出しにくい県立高普通科で、学力そのものが今、生徒獲得の大きな戦略になろうとし
ているのだ。

 ■学習塾の雰囲気■

 教室の半分ががらんとしているのは、少人数教育のためだ。宇都宮学園高の英進コース。
一年生十二人が教壇を囲むように机を並べ、芥川龍之介の古典「羅生門」を読み進める。授
業は学習塾の雰囲気だ。
 「夜遅くまで先生が付きっ切りで、毎日が充実しています」。同コース一年の高津戸雄飛君
(15)は、県立でも有数の進学校を辞退し、宇学に飛び込んだ。県立高をけることに、出身中学
の教師は最後まで渋ったという。
 進学校・宇学の標榜。英進科の牧島勝利科長は「優秀な子を預かって、もし伸ばせなかった
ら逆宣伝になる」と意気込みを語る。
 県立高志向が強い本県で、流れを変える手応えを感じ始めている。


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5 中高一貫校 
(2002年12月20日付)

県立中高一貫校に待望論
受験の低年齢化懸念
求める理想像には違いも 


 高台の校舎。高校三年生の教室が並ぶ三階の一角に、百五十九人の中学一年生が登校し
てくる。
 だぶつき気味のブレザー姿。廊下ですれ違う学生服の高校三年生より、ひと回り小さい。
 静岡県立浜松西高はこの四月、中等部を併設し、中高一貫教育を始めた。
 地域の公立高で浜松北高に次ぐ進学校として知られる同校。昨年度は東大など国公立大に
現役で二百二人の合格者を出した。
 中高一貫の目標は「高い知性、豊かな人間性、社会貢献への高い志と、たくましい力をも
ち、国際社会でリーダーとして輝く人材の育成」。
 地域の関心は高い。入学者選抜の競争倍率は約六倍の「狭き門」となった。同校志願者が
五十人を超えた小学校もある。
 合格者の出身校は七十一校に及ぶ。電車やバスに乗り、一時間半もかけ通学する生徒も。
 本県も中高一貫校の導入を打ち出し、検討を進めるが、全国では遅いほうだ。現実に、中学
三年生には「受験」の壁がある。
 十二月。宇都宮市内の中三男子は県立の進学高校を目指し、夜遅くまで机に向かう。見守
る母親は「受験は子どもにも親にも大変。精神的につらい。県立の中高一貫校があったらい
い。あらゆる意味で高いレベルの学校であれば行かせたいもの」。
 本県には、どんな中高一貫校学校が生まれるのか。

◇◇◇      ◇◇◇      ◇◇◇

 「政治家になりたい。親からこの学校を聞いて、夢に合っていると思って受けたんです」
 放課後。テニスラケットを抱えた浜松西高中等部一年生の男子は、はきはきと話し、部活の
練習へ駆け出していった。
 中等部から浜松西高へは入試なしで入学できる。継続した六年間…。
 職員室は、高校と中学の教員が共に机を置く。基礎基本を定着させ、どこまで発展的な学習
ができるか。両方の教員が議論して、六年間の授業計画を立てている。
 高校の教員が中学生を教え、中学の教員が高校生を教える。これも継続的に指導するため
だ。英語や国語は中等部で「表現」、高等部で「コミュニケーション」を重視して指導する時間も
ある。
 部活動も中学生、高校生が一緒に所属。受験勉強による中断もない。
 「『受験エリート』とはうたっていない。基礎基本を定着することで、大学進学にも十分対応で
きる。高校入試がなく幅広い経験もでき、将来への高い志を育てられる」と渡辺東一中等部教
頭。
 中高一貫校の課題として「中だるみ」が指摘される。高校入試がないための気の緩みだが、
同校は「それより一貫教育のメリットのほうが大きい」と強調する。

 ■受験への不安■

 近くの公立小学校に子どもを通わせる母親たちは「浜松西高なら受けさせたい」と声をそろえ
た。一方で口にするのは「受験」への不安だ。
 中高一貫校の最大の懸念は、受験の低年齢化だ。高校受験にとって代わって、中学受験が
過熱しはしないか。
 中高一貫校の導入を目指す国は受験競争の低年齢化を懸念し、学力試験を禁じた。抽選を
行う中高一貫校もある。
 浜松西高中等部も静岡県教委が作成する総合適性検査、作文、面接、調査書で入学者を
決め、学力試験は行わない。
 だが「浜松西高中等部・受験コース」を掲げる塾も現れた。総合適性検査への対応、面接の
受け方…。学力試験はないのに、この夏の学校説明会でも保護者から入学者選抜の質問が
相次いだ。

 ■さまざまな形態■

 全国で設置された公立の中高一貫校は既に五十校。新年度は二十四校が開校予定だ。

 その形態や内容はさまざま。全寮制による完全な中等教育学校。過疎地の既存中学校と高
校が連携、地域の特色を生かした教育を行うケース。中等部を併設するが、芸術の才能など
個性を重視したり、総合学科を取り入れたりするケースもある。
 本県の中高一貫校は何を目指すのか。

 「社会の中核を担う指導者の育成」と浜松西高型を求める声もあれば、「進学校に導入して
他県に負けない大学進学を」という受験エリート型、「個性を伸ばす」「地域の特殊性を考慮し
特色を出す」というゆとり型…。県立校長の間でも、求める理想像は分かれる。
 高校入試、さらには高校間の学力の地図を塗り替える可能性もある中高一貫校。間もなく本
県にも誕生する。


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6 自分探し 
(2002年12月21日付)

求められる職業観の育成
将来の夢 学ぶ意欲に
目立つ職業意識の希薄化 


 巨大な円形の電光掲示板。上場二千社の株価が次々に表示されていく。
 「テレビによく映るよね」「思ったよりでかいなあ」。詰め襟姿の生徒たちが感嘆の声を上げ
た。
 東京証券取引所のマーケットセンター。目の前で、日本経済の今≠ェ映し出される。
 宇都宮高は昨年から、二年生を対象にOBの職場を訪問する進路研修をスタートさせた。
 東京、埼玉、神奈川など首都圏の企業や大学、放送局、研究機関などを十五グループに分
かれて回る。
 生徒の大半が大学進学を目指す同校。豊田敏盟校長は「だからこそ職業観の育成が求めら
れる」と言い切る。「大学合格で目的を失ってはいけない。それが本当の進路指導ですよ」
 教育現場は今、進路、職業観の指導に躍起になっている。
 社会人に交じり、高校生が演技や振り付けの練習を繰り返す。足利南高のホール。来春のミ
ュージカル上演を目指す本格的な立ちげいこだ。
 講師は東京の「青年劇場」所属の劇団員。部活や市民サークルではない。同校の総合学科
の授業風景だ。
 単位制で、普通科などにはない幅広い選択科目、将来の進路を考えながら自分の時間割で
勉強できる長所。人を厚く配置し、施設にも費用を掛けた総合学科は「非常にぜいたく」(同
校)な新しいタイプの学校像を見せてくれる。
 高校生活は「自分探しの旅」でもある。

◇◇◇      ◇◇◇      ◇◇◇

 株式投資に対する日米の大きな違いに熱弁が続く。宇都宮高の後輩二十一人を前に、東京
証券取引所執行役員の天野富夫さんは上着を脱いだ。
 「仕事に問題意識を持つことが第一。金融に少しでも興味を持って、将来証券市場を目指す
人がいればなおいい」
 早期離職者やフリーターの増加など、若者の職業意識の希薄化が問題視されている。
 栃木労働局職業安定課によると、県内高卒者で就職三年以内に退職した割合は45%。ほぼ
二人に一人が辞めている格好だ。
 「高校生は長続きしない。すぐ辞めてしまう」という企業の声。ある高校関係者は「上司とどう
話していいか分からないから、と退職してしまうんです」と漏らす。

 ■進路のイメージ■

 下野新聞社が普通科のある全日制の県立高四十七校にアンケートした結果、回答した三十
八校のうち66%が高校生の職業意識の希薄化を訴えた。目立った理由は「将来の夢が持てな
い」だった。
 宇高の研修目的も、学校では味わえない自分の進路のイメージをつかむきっかけづくりだ。
 東証を訪れた金井嵩行君(17)は「経済の仕事に就きたいので、職業観の話はためになっ
た」。山口健太君(17)も「遠い世界が身近になった」という感想を口にした。
 豊田敏盟校長は「今、本当の進路指導の要請が高校に寄せられている」と強く感じている。

 ■好きな科目選択■

 氏家高二年中山弓枝さん(17)の夢はパティシエ(製菓職人)だ。フランスに留学し、東京で自
分の店を持つ−。
 時間割には、火曜日のフランス語、木曜日の製菓実習が書き込まれた。「慣れてきました
が、フランス語は難しくて」
 総合学科を設置する県立高は氏家、今市、足利南の三校。来年度から茂木高がこれに加わ
る。
 選択科目の中には中国語やスペイン語を置く学校も。生徒は普通科の三倍近い科目の中か
ら、自分の興味、関心によって好きな履修科目を選ぶ。
「勉強や自分の将来に目的意識がないと、戸惑ってしまうでしょう」と氏家高の伴瀬良朗校長。
 各校とも担任が生徒一人ひとりの科目選びにアドバイスし、今市高は進路アドバイザーを置
いて支援している。
 少人数教育のメリットもあり、高校生活の満足度は極めて高い。氏家、今市両校とも、今春
の卒業生の85%以上が「総合学科を選んでよかった」と答えている。
 四年前に定員割れを起こした足利南高。地盤沈下を食い止めるため、普通科から総合学科
に転換した。すると、受験生の人気が高まった。
 誤解もある。「総合学科では、大学進学が不安」と敬遠する中学生の親も少なくない。しかし
今市高は普通科の時代より大学進学実績を上げた。
 窪正之校長は言う。「進路意識を持てば、間違いなく学ぶ意欲が出る」


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7 定時・通信制 
(2002年12月25日付)

改革進む「定時・通信制」
補助機関から機能多彩に
単位制で「不適応」救済 


 その高校の「時間割」は、生徒の数と同じだけ存在する。学びたい科目を選び、年間カリキュ
ラムを組むのは生徒一人ひとりだ。
 授業の出欠はIDカードでチェックされるが、サボっても教師にとがめられることはない。クラス
もないため、授業の合間の居場所、過ごし方も自分で考える。
 東京都新宿区にある都立定時制・通信制の新宿山吹高。都立校初の単位制高校の同校
は、徹底して生徒の「自主性」を重んじる教育方針が全国から注目を集めている。
 「みんなが違っていていい。これまでの教育はベストワンを目指してきたが、これからはオン
リーワン」。萩原信一校長は断言する。
 福島県のJR郡山駅前にそびえ立つ地上二十四階建てビル「ビッグアイ」。八階から十四階
には、単位制の県立定時制・通信制高校、郡山萌世(ほうせい)高が入っている。全国でも珍
しい高層ビル型校舎だ。
 交通の便の良さに加え、一般社会人の聴講生制度導入など「社会に開かれた学校」をアピ
ール。三好祥夫校長は「年齢や過去は問わない。学ぶ意欲があれば誰でも受け入れる」と胸
を張る。
 従来のイメージから一変している定時制・通信制高校。二十一世紀の学校づくりは、どうある
べきか。本県を含め全国で「改革」が急速に進められている。

◇◇◇      ◇◇◇      ◇◇◇

 「えっ、こんなに多いの」−。アンケート結果に目を見張った。
 大田原東高の津久井久美子教諭はこの夏、同校を含む県内の定時制高校全十一校の在
校生に「不登校経験」の有無をたずねるアンケートを実施した。結果、回答した八百八十八人
のうち約四五%の生徒が「経験あり」と答えたのだ。
 「増加傾向は感じていたけど、まさか半数近くに上るなんて…」
 かつての定時制高校には、経済的な理由などで高校進学できなかった人が働きながら学ぶ
場というイメージが強かった。だが、いまは中学での不登校経験者や全日制高校の中途退学
者など「学校不適応」の問題がクローズアップされる。

 ■再履修必要なし■

 県内の定時制高校はいずれも「学年制」を採用。履修や修得できない科目があると、場合に
よっては留年となり、同じ学年をやり直さなければならない。
 その点、「単位制」は、一度修得し、単位が認められた科目の再履修は必要なし。以前在籍
していた高校で修得した単位なども一定の基準で認められる。このため「留年すると意欲を失
って退学してしまう生徒もいるが、単位制なら救える」と評価する教師は多い。
 本県初の単位制高校はどうなるのだろう。
 県は二〇〇五年四月に栃木市内に開校させる予定だが、統合される複数の定時制高校の
関係者が存続を強く求め、先行き不透明。さらに、どんなタイプの学校を目指すのかも具体化
していない。
 ユニークな単位制高校として知られる新宿山吹高や郡山萌世(ほうせい)高は「学校不適応」
への対応を大きな柱と位置づける。
 新宿山吹高は、全校生徒の約七割までが不登校経験者や中途退学者。「人間関係で傷つ
いている子が多いので『学校に来なければならない』『…しなければならない』という雰囲気に
拒否反応を起こすケースもある」と萩原校長。「うちは校則がなく、服装も自由。こうした校風の
中、生まれ変わったように学校を休まなくなる子は多い」と振り返る。
 一方、郡山萌世高は定時制の一時限目の始まりを午前十時半と遅めに設定。不登校経験
者で、朝早く起きるのが苦手な生徒への配慮だ。入試にも、学力検査とは別に「学ぶ意欲」「抱
負」などを自分の言葉で表現する「セルフエクスプレッション(SE)面接」を導入している。

 ■学びながら働く■

 両校とも、社会人対象の「生涯学習」にも取り組んでいる。
 郡山萌世高の三好校長が言葉に力を込める。
 「もう定時制は、かつてのような全日制の補助機関ではない。さまざまな子どもや大人を受け
入れ、従来の『働きながら学ぶ学校』から、よりきめ細かな教育が可能な『学びながら働く学
校』に変わってきた」
 子どもたちの「救い」と、社会人の向上心の「バックアップ」−。本県の単位制高校にもそうし
た多彩な機能が求められそうだ。


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8 塚田参事に聞く 
(2002年12月26日付)

再編計画 新年度に明示
05年以降の生徒減に対応 

 県立高の再編計画の策定が、大詰めを迎える。男女別学校は共学化するのか。本県初の
中高一貫校や定時制の単位制高校はどのような内容となるのか。県民の関心は高い。四月
には高校に新学習指導要領が導入され、学力への期待が高まる一方で、職業教育も求めら
れる。課題を多く抱える中で、県教委は次代を担う子供たちにどのような高校教育を示すの
か。塚田昭夫高校再編推進担当参事に聞いた。


 −別学、共学について県教委の有識者会議や県議会は「共学推進だが別学も容認」という
声が多い。別学を残すならばその理由は何か。
 「別学、共学の問題は価値観が入り、難しい。県教委としては県民の大多数が何を望むのか
をまず第一に考えた上で判断し、方向性を示す。ただ別学を残す場合の確たる理由は正直言
って、これだからというのはない。言えることは、本県の別学校は歴史と伝統があり、これを壊
すべきでないという多くの意見があるということ」
 −中高一貫校の導入は二○○五年度までの県総合計画の項目の一つ。開校のめどは。
 「○五年度の開校は難しく、再編計画で方向性、学校数を示す。学校の形態は、有識者会議
で六年間の一貫教育校か、中学校を併置するのがよいという意見が出ている。しかし生徒減
少期で、財政的にも新たな学校は造れない。どこかの学校が中高一貫になる」
 −総合学科は導入から十年目。生徒の満足度は高いが、地元の理解が進んでいないようだ
が。
 「保護者に正確に理解されていない面はある。再編の全体像を示した後、あらためて各学校
の教育内容をパンフレットなどで知らせたい。中学校の進路担当教諭に対しても、総合学科の
目標や内容を周知したい。総合学科の導入は本県が全国の先駆け。総合学科の評価は高
く、今後もある程度増やしていく」
 −定時制の単位制高校は不登校の受け皿にもなる。どう対応するのか。
 「高校へ進学しない子供や、公私立の全日制の中途退学者は合わせて三千人近くに上る。
しかし今の定時制の入学者は募集定員六百五十人の半数程度どまり。単位制高校は三部制
なので、自己実現を図る手だてとして学校に来てもらえるのではないか。単位制でもホームル
ーム制をとり、目標が定まっていない生徒の相談にのることが必要と考えている」

 −今後の予定は。

 「一月に予定される有識者会議の提言を受け、新年度に十年間程度を見込んだ県教委の再
編計画を示す。パブリックコメントにかけた上で、どの学校をどうするのか具体的な校名を挙げ
た実施計画を示す。施設の整備が必要な場合もあるので、これも詰める」
 −いつまでに再編計画を着手するのか。
 「県内の生徒数は○五年から○八年にかけ急減する。募集停止をしなくては、学級減でも間
に合わない。再編計画でこれに対応しなくては」


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下野新聞より



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